倶楽部ハウスの歴史
倶楽部ハウス 昭和 9 年開場 ~ 終戦 ~ 戦後復興 ~

初代“かや葺き屋根”クラブハウスのスケッチ(昭和9年)

昭和20年 終戦直後荒れ果てた姿の旧クラブハウス(戦時中コースは芋畑にハウスは兵舎として使われた)
現在の倶楽部ハウス アントニン・レーモンド氏設計により昭和35年完成
設計依頼に当たっての基本方針

一、贅沢を避け質素に
一、ハウス内の流れを機能的に
一、必要なものが必要な場所に
一、清潔で気持ちよい耐火建築で
一、職員の厚生施設を整え
一、松ヶ江の環境に配慮した
一、初代クラブハウスの面影を残す

アントニン・レーモンド氏設計思想
人間の尺度によって

  • 自然(ナチュラル)に
  • より単純(シンプル)に
  • より直裁に(ダイレクト)に
  • より経済的に(エコノミカル)に
  • こころから(オネスト)

創ることである

設計は株式会社レーモンド設計事務所に決定

アントニン・レーモンド氏は古いゴルファーであり、戦前の朝霞(東京ゴルフ倶楽部)のクラブハウスを始め数多くの設計を手がけている優秀な設計家である。
また、同氏の設計思想は新クラブハウスの基本方針によく合致しており、特に建築施工の監督が極めて厳格な点は、監督能力に欠ける当倶楽部には非常に都合が良い。

昭和35年 第三代理事長 安 川  寛
Antonin Raymond
■ アントニン・レーモンドの略歴
1888年
オーストリア領ボヘミア地方(現チェコ)に生まれる
1909年
プラーグ工科大学で学ぶ
1910年
米国に渡り、NYのキャス・ギルバート事務所で働く
1914年
ノエミ・ペルネッサンと結婚
1916年
フランク・ロイド・ライトのもとで働く
1917年
NYで独立
1919年
帝国ホテル建設のため、ライトと共に来日
1921年
ライトのもとを離れ、「米国建築合資会社」を設立
1923年
関東大震災後、レーモンド建築事務所を設立
1926年
チェコスロバキア共和国名誉領事に任命される
1938年
米国に戻り、NYに事務所を開設
ペンシルバニア州ニューホープに農場とスタジオ兼自宅を開く
1941年
東京事務所を閉鎖
1948年
戦後、再来日し、東京事務所を再建
1952年
アメリカ建築協会名誉会員となるリーダーズ・ダイジェスト東京支社で、1951年度日本建築学会賞を受賞
1956年
アメリカ建築協会より「Medal of Honor」を受ける
1957年
八幡製鉄体育館でアメリカ建築協会「Award of Merit」受賞
1964年
勲三等旭日中綬章を受賞する
1965年
南山大学で、1964年日本建築学会賞を受賞
1973年
離日し、ニューホープへ戻る
1976年
ニューホープにて死去聖アンセルモ目黒教会において追悼ミサが行われる
1980年
ノエミ・レーモンド死去

帝国ホテル(明治村に移築された玄関部分)
アントニン・レーモンドとフランク・ロイド・ライト
1919年(大正 8 年)旧帝国ホテル設計監理のため、フランク・ロイド・ライトと共に来日したアントニン・レーモンドは1921 年(大正10 年)、日本に設計事務所を開設。それがレーモンド設計事務所のはじまりです。
戦前・戦後、日本に永く滞在し多くの作品を手がけました。その設計哲学を受け継いだレーモンド設計事務所は、今も常に独創的な作品を発表し続けています。

全国初の「国の登録有形文化財」「BELCA賞ロングライフ部門」「日本建築家協会25年賞受賞」の栄誉
国の登録有形文化財 登録
国の文化審議会(会長 宮田 亮平)が、平成26年3月18日(火)に開催され、同審議会文化財分科会の審議・議決を経て、国の登録有形文化財に登録するよう文部科学大臣に答申が行われた。
1.沿  革
門司ゴルフ倶楽部は昭和9年(1934)に創設された福岡県最古のゴルフ場であり、創建当時から北部九州地域の企業人や財界人が会員として名を連ねた伝統あるゴルフ場である。現在のクラブハウスは昭和35年(1960)に建設された。設計者はチェコ出身のアントニン・レーモンド、施行は竹中工務店である。
レーモンドはフランク・ロイド・ライトとともに帝国ホテル建設のために来日し、その後日本で設計活動を始めた。その作品はモダニズム建築と呼ばれ、多くの建築作品を遺しており、日本建築の近代化に大きな影響を与えた建築家である。
本クラブハウスは北部九州地域で継続的に建設されたレーモンドの建築の1つであり、戦後モダニズム建築の重要な建築作品である。
2.登録有形文化財

名称
門司ゴルフ倶楽部クラブハウス
所在地
福岡県北九州市門司区大字吉志175
特徴・評価
県内最古のゴルフ場に、昭和35年に建てられたクラブハウス。設計はレーモンド建築設計事務所。南棟、北棟、スタートハウスからなる建物群である。南棟、北棟は機能分化された並行する2棟の建物で構成されている。南棟がクラブハウスの主棟で、玄関、ロッカー室、談話室、食堂等が配され、ゴルフ場利用者のための機能とゴルフ場管理機能をもつ。北棟は浴室、女子キャディー室、従業員食堂等が配置され、地下には機械室が設けられる。
登録基準
造形の規範となっているもの
総括
本クラブハウスは、工法として本来見せるべきものではなかった全ての構造材を意匠材とし、しかも素材がもつ特性や機能性をデザインとして表現している。さらに鉄筋コンクリート構造は西洋で生まれた手法であるが、西洋の建築手法に日本の伝統的手法である木造や障子を用い、モダニズム建築のなかに「和」の手法を取り入れている。このような手法は戦前の建築には見られず、レーモンドが戦後において近代建築の可能性を試みたものと評価されている。

門司ゴルフ倶楽部クラブハウス 南棟
構造及び形式
鉄筋コンクリート造2階建、鉄板葺
面積
1257㎡
特徴・評価
開放的で水平線を強調した立面構成をなし、内部は打放しコンクリートの構造で大空間を確保し、丸太の小屋を組む。いわゆるレーモンド建築設計事務所の作風が遺憾なく発揮されたモダニズム建築である。主要構造は鉄筋コンクリート構造で、柱型を表に出し、2階柱上部に木造の小屋組を架ける。コンクリート造の構造材は打放しコンクリートでコンクリートの素材を意匠材としている。内部は柱と梁がコンクリート打放しで、内装材はベニヤと杉板である。中央間の上部の高窓は和紙を貼った障子が入っている。玄関ロビー正面の大階段を上がると2階の談話室と食堂となる。この大空間には天井から吊り下げられた「風洞」をもつ大規模な「暖炉」が設置されている。
門司ゴルフ倶楽部クラブハウス 北棟
構造及び形式
鉄筋コンクリート造平屋建 一部地下1階建、鉄板葺
面積
434㎡
特徴・評価
キャディー室などのサービス機能を集約して設備充実を図りつつ、プレーヤー用の浴室なども配置するが、プレーヤーとキャディーの動線が交錯しないよう合理的に計画された平面をもつ。サービス用の施設。北棟は西側で南棟につながる。浴室部を除き他は陸屋根であったが、現在は切妻屋根を載せている。南北面ともに柱型を出し、腰高窓で構成されている。
門司ゴルフ倶楽部クラブハウス スタートハウス
構造及び形式
木造平屋建、鉄板葺
面積
33㎡
特徴・評価
外壁と内壁は板を張った大壁である。屋根や外壁はクラブハウスと同系色のオレンジ色に近い赤色塗装を施し、丸太の桁を設ける。平面は3室とし、左右を待合、中央を管理室とする。腰高の水平連続窓を設げ、開放感のある構成をなす。

平成10年に第8回 BELCA賞ロングライフ部門受賞
公益社団法人ロングライフビル推進協会(旧社団法人建築・設備維持保全推進協会)
BELCA (Building and Equipment Long-life Cycle Association)

本協会は、建築物(建築設備を含む。以下同じ)に関連する多数の業種の英知を結集して、建築物のロングライフ化に関する事業を行うことにより、良好な建築ストックの形成を推進し、もって地域社会の健全な発展及び災害の防止ならびに地球環境の保全に寄与することを目的とする。
1.ロングライフ化のための人材の育成事業
2.優良な建築ストックの表彰・評価事業
3.ロングライフ化に関連する調査・研究・技術開発・情報発信事業
4.ロングライフ化に関する共益事業
BELCA賞
長期にわたって適切な維持保全を実施したり、優れた改修を実施した既存の建築物のうち、特に優秀なものを選び、その関係者を表彰することにより、わが国における良好な建築ストックの形成に寄与することを目的とする表彰制度です。
ロングライフ部門
建築物のロングライフを考慮した適切な設計のもとに建築され、長年にわたり継続的に優良な維持保全を実施した建築物で、築後20年以上経過していること。
平成25年にJIA(日本建築家協会)25年賞受賞
公益社団法人日本建築家協会
JIA (The Japan Institute of Architects)

建築の設計監理を行う建築家の団体として、1987年に結成されました。建築家の資質の向上および業務の進歩改善を図ることを通じて、建築物の質の向上と建築文化の創造・発展に貢献することを目的として結成された団体です。建築家憲章、倫理規定・行動規範および懲戒規定を会員の総意に基づいて定め、自主自律の団体運営を行っています。2013年4月1日、公益社団法人に移行しました。JIA建築賞は、25年賞のほかに以下の4部門が設けられ、すぐれた建築作品を顕彰し、建築文化の価値を社会に発信しています。

  • 日本建築家大賞 
  • 日本建築家協会賞
  • JIA 新人賞
  • JIA 環境建築賞
  • JIA 25年賞
JIA25年賞
25年以上にわたって「長く地域の環境に貢献し、風雪に耐えて美しく維持され、社会に対して建築の意義を語りかけてきた建築物」を表彰するものです。あわせて「その建築物を美しく育て上げることに寄与した人々(建築家、施工者、建築主また維持管理に携わった者)」を顕彰することにより、多様化する価値基準の中で、建築が果たす役割をあらためて確認するとともに、次世代につながる建築物のあり方を提示することを目的とする賞です。
過去に、九州内では5作品が受賞し、福岡県においては2009年の福岡銀行本店に続き2例目で、北九州市内では初の受賞となりました。
2012 年度 JIA(日本建築家協会)25年賞 選考コメント

建築物:門司ゴルフ倶楽部
設計者:アントニン・レーモンド レーモンド建築設計事務所
建築主:社団法人 門司ゴルフ倶楽部
施工者:株式会社 竹中工務店九州支店
竣工年:1960年6月
講評
半世紀以上を経過しロングライフ建築の域を超え、文化財としての価値も見出され始めている。現用し続ける朱色の倶楽部ハウスは老松の林立する「松ヶ江」に展開されるコースに映え、その華美でなくシンプルな佇まいには経年によって獲得された格式をも見出すことができる。保全による価値は30年ほどの経過で一定の判断が定まるものとされるが、リビングヘリテージとしての価値が見出されるためには、地域のコミュニティとの経過が半世紀ちかく必要とされる。今回は特にこの地域に根差し生き続ける建築の文化的側面を評価することとした。

審査委員:山 名 善 之